住まいと省エネルギー
立松 宏一 さん
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構経営管理部 企画・広報室 企画・広報グループ 主幹 一級建築士、博士(工学)
省エネルギーを専門とする研究職で、現在は法人の広報を担当している。2022年まで北海道立総合研究機構の建築研究本部に勤務し、住宅のエネルギー消費量調査や、省エネに関連する暮らし方アンケートを担当した。
立松 宏一 さん
地方独立行政法人 北海道立総合研究機構札幌市を含む北海道地方は家庭一世帯当たりのCO2排出量が多く、全国平均の約1.6倍となっています(図1)。冬の寒さが厳しく上水道の給水温度も低いため、暖房と給湯(風呂、台所など)のエネルギー消費量が多いことが主な要因で、暖房は全国平均の約3.5倍、給湯は約1.4倍になります。
そのため、私たちが暮らしの中で省エネに取り組む場合は、特に暖房と給湯に気をつけることが効果的といえます。照明をこまめに消したり、家電の使い方を工夫したりといった積み重ねも当然大切ですが、エネルギー消費の多くを占める分野を見直すことで、大きな省エネにつながる可能性があります。
暖房の省エネは、断熱材や断熱サッシなどによる「住宅の高断熱化」が基本ですが、ここでは既存の住宅でできる取組を考えてみましょう。
まずは、太陽の光を積極的に室内に採り入れることです。窓から太陽光を採り入れることで、部屋は暖まり、暖房エネルギーの節約につながります。太陽光が入る住宅では、日中遮光カーテンは開け、できればレースカーテンも開けて太陽の熱を有効に活用しましょう。
一方、住宅から逃げていく熱で気をつけなければならないのは換気です。換気は、住宅から逃げていく熱のうち平均的には20%くらいを占めます(図2)が、実際の換気量はかなりばらつきがあるのが実態です。台所や浴室の換気扇を必要がないのにつけっぱなしにしていたため、暖房エネルギーが増えたというケースもあります(常時換気として使用している換気装置は止めないでください)。
窓については、北海道の住宅では普通のペアガラスとは異なるLow-E複層ガラス*1(図3)が入った樹脂サッシが30年ほど前から普及しており、ある程度の断熱性能が確保されています。しかし、古い住宅だったり、明らかに隙間風があったりする場合には、窓の改修や内窓の追加も暖房エネルギーの節減に効果が期待できます。
*1 Low-E複層ガラス:2枚のガラスで中間層をつくり断熱性能を高めた複層ガラスに、さらに断熱性能、遮熱性能を高めるため特殊な膜をコーティングしたガラスのことです。
北海道の住宅は、道外の住宅に比べて冬の室温が高い傾向にあります。これは北海道の住宅の断熱性能が高いためで、家の中のどの場所でもある程度暖かいのは、北海道の住宅の特徴ですが、必要以上の暖房は控えましょう。
仮に24時間一定温度で暖房する場合、暖房の設定温度を1℃変更することで、暖房エネルギーは約1割変わります(図4)。また、昼間に誰もいないときや使用していない部屋は暖房しない、夜間は暖房設定温度を下げるといった工夫も当然効果があります。ただし、家の中に温度差ができると、ヒートショック*2の原因になり、押し入れなど温度の低い部分で結露を生じやすくなるので、無理のない範囲で取り組みましょう。
*2 ヒートショック:気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こること。暖かい居間から寒い脱衣所に移動し、浴槽に入るときなどに起こる場合があります。
北海道で使われている暖房機器は、既存住宅を含めると灯油ストーブが最も多く、戸建て住宅では1990年代以降、ボイラーの温水を各室に設置した放熱器に供給するセントラルヒーティングが普及しました。なお、図5は全道データであり、札幌市など都市ガスが使用できる地域では、ガスストーブやガスを熱源とするセントラルヒーティングの割合が多い傾向があります。
近年は、北海道でも寒冷地エアコンが普及し始め、エアコンだけで暖房を賄う住宅もあります。エアコンは、温風を上部から吹き出す構造上、強い気流が生まれ、室内の温度差ができやすいため、断熱性能が低い住宅では他の暖房方式より快適性が劣る場合もありますが、断熱性能の高い住宅では室内の温度が一様になり、気流もあまり感じません。タイマー設定やスマートフォンによる遠隔制御も可能なエアコンは、一人暮らしや共働きなど、在宅時間が限られているライフスタイルにも適していると言えます。
同じ暖房出力当たりのCO2排出量が突出して大きいのは、電気ヒーター式の暖房機器です。電気ストーブやファンヒーター、電気式のパネルヒーター、電気蓄熱暖房機が該当します。電気暖房でも、エアコンなど室外機を用いるタイプは「ヒートポンプ」という仕組みを用いており、図6(a)に示すように、消費する電気よりも多くの熱を出力することができます。
これに対し、電気ヒーター式の場合は、図6(b)のように消費した電気がそのまま熱に変わるだけです。太陽光発電が期待できない冬季の夜間の電気は現在も多くが火力発電所で作られており、発電・送電の損失を考慮すると、燃料の持つエネルギーの4割程度しか暖房に利用できません。これであれば、住宅の中のストーブで燃料を燃やして暖房したほうがずっとエネルギー効率が良いことになります。
したがって、電気ヒーター式の暖房機器はトイレなどで短時間使用する用途には適していますが、常時使用することはCO2排出の観点から好ましくありません。
同じお湯の量でも、夏と冬ではエネルギー消費に差があります。例えば夏は水道から供給される水の温度が18℃だとすると、40℃のお湯を作るのに22℃の昇温で足りるのに対し、冬は水の温度が4℃だとすると36℃の昇温となり、単純計算で36÷22=約1.6倍のエネルギーが必要となります。したがって、冬は特にお湯を大切に使うことが必要です。
家庭でのお湯の使用は、入浴とシャワーが大部分を占め、浴槽に湯を張るよりも、シャワーのみですませるほうが湯の使用量は少なくなります。湯張りをする場合も、シャワーを流したままにしない、家族が続けて入浴するといった工夫で大きな省エネにつながります。
また、台所や手洗いに使用するお湯は、40℃までなくても、30℃程度でも十分な場合が多くあります。最近では、少量のお湯でも体感的に十分な水量を感じさせるなど、様々な工夫がされた節湯型の水栓やシャワーヘッドがありますので、それらに交換するのも効果的です。
給湯機器は2000年代以降、エコキュート(電気ヒートポンプ式給湯器)、エコジョーズ(高効率ガス給湯器)、エコフィール(高効率灯油給湯器)などの登場によって、従来と比べて相当な省エネが実現されています。もし20年、30年前の機器をお使いの場合は、給湯機器を交換するだけでも省エネにつながります。
また、電気温水器は機器の価格が安く、深夜電力を利用できたことから過去に普及しましたが、電気ヒーターで湯を沸かしているためCO2排出量が多くなります。電気でお湯を作るのであれば、これからはエコキュートなどヒートポンプ式給湯器の採用が基本となります。
暖房や給湯に限らず、家庭で省エネに取り組む際は、本当に必要なものなのかを改めて考えてみる必要があると思います。我慢や節約はストレスになりかねませんが、そもそも機器を「持たない」という選択肢はないでしょうか。家電製品で消費エネルギーが特に大きい機器としては、冷蔵庫、照明、テレビ、温水便座、食器洗浄機、電気ポットなどが挙げられます。
例えば、私は冷蔵庫を持っていません。冷蔵庫を持たないことで、冷蔵不要な食品中心の食事にする、生鮮品は食べる直前に購入する、野菜は庭で作るなどで、かえって食生活が豊かになっていると感じています。省エネにもなり、必要以上の食品を買わないようになる、冷蔵庫を置く場所や掃除の手間が省けるなどのメリットもあります。
なんとなく便利だからと使っているものがないか、このコラムをお読みになったことをきっかけに、ぜひ一度生活を見直してみてはいかがでしょうか。