脱炭素を「デカボスコア」で身近に
石﨑 健太 さん
Earth hacks株式会社マーケティング企画部 部長 京都大学工学部卒業。2015年三井物産に入社。食料本部/金属資源本部/ペルー駐在を経て、2023年より博報堂と三井物産が設立した環境に配慮した商品・サービスの提供を事業とする「Earth hacks株式会社」へ出向。企業・自治体の脱炭素マーケティングを担当している。
石﨑 健太 さん
Earth hacks株式会社「このTシャツは再生繊維を使用しているので生産から廃棄の工程におけるCO2排出量がなんと1.5kgCO2eです!」と聞いた時、みなさんは何を感じるでしょうか。おそらく、それが多いか少ないかよく分からないのではないでしょうか。そこで登場するのが、商品やサービスのCO2排出量が従来と比較してどれくらい削減されたかを「◯%off」の表記で可視化する「デカボスコア*1」です。先ほどの例も、「このTシャツは従来製品と比べて生産から廃棄の工程におけるCO2排出量が50%offです」と言われると、「そんなに少ないんだ」と直感的に理解することができるのではないでしょうか。
今、私たちの暮らしやビジネスにおいて、脱炭素化が急務となり、環境配慮型の製品やサービスが生活の中でも増えてきました。一方で、CO2排出を減らすことが重要なことは理解しているものの、例えば店頭でレジ袋をもらわないことがどれだけ脱炭素に貢献しているかが可視化されないと、実感がわかず、「結局意味がないのではないか?」という気持ちになり、その市民行動が継続しないという現象も起こっています。
札幌市が2030年までに排出CO2相当量を55%削減(2016年比)することを目標にしている今、日々の生活の中で、少しでも排出CO2相当量が少ない商品を選ぶことが重要になります。その一助として、環境負荷が少ない商品やサービスであることがひと目で分かる市民の新しい指標として、デカボスコアの導入を更に拡大できればと考えています。
*1:2024年11月時点で350以上の製品・サービスへ導入。
新しい取組として、個人の年間二酸化炭素相当排出量を算出する「デカボmyスコア」もスタートしました。これは、4つのカテゴリ「自宅・移動手段・ショッピング・食事」に関する簡単な質問に答えるだけで、市民の年間CO2排出量を計測できるツールです。
ダイエットをスタートする前には体重計で「自分の今の立ち位置」を知りますよね。それと同じ発想で、市民のライフスタイルを変容するきっかけとして、まずは今の自分の年間排出量を知ってもらい、日本全国平均(7トン)と比較した自分の立ち位置や、「意外と移動によるCO2排出量って多いんだ!」のような気付きを与えます。札幌市でも、2024年雪まつりで導入され、計6日間で570名もの市民が参加してくれました。特筆すべき結果として、50代は10代の約2人分の排出量に迫り、賃金と排出量が、おおよそ比例する傾向が見てとれました。
市民の脱炭素アクション向上のためには、デカボスコアによる「貢献実感」だけでなく、「欲望×ストーリー」が必要です。「地球を守るために一人ひとりが動き出そう」のような正義に訴えかける訴求だけでは、人は行動に踏み出しにくい。「美味しい、カワイイ、楽しい」のような純粋な欲求に響くものが必要であり、更に共感や応援したくなるようなバックストーリーも大切になります。つまり「脱炭素のためにする行動」ではなく、自分の好きなこと・欲求を充実させるために、良いと思った商品・サービスを選択した結果、「実は脱炭素にも寄与する行動だった」。そんな図式を作っていくことが重要です。「脱炭素を楽しく!」ではなく、「楽しいことが脱炭素にも貢献していた!」という生活者の新しい生活習慣をデカボスコアやその他サービスを通して作っていくことで、環境における企業努力を見える化し、市民に伝わり選ばれることでサステナブルな経済価値にも繋げていけると思っています。
2050年にカーボンニュートラルを達成しても今より暗い社会だったら意味がなく、せっかく目指すのであれば、今以上に笑顔あふれる明るい2050年がいい! そんな想いでEarth hacksは挑戦を続けています。地元の美味しいものを食べる(地産地消)、それだけでも立派な脱炭素への貢献です。みなさんも、無理なく、楽しく、身近なアクションを少しずつ取り組んでみませんか?