気候変動と災害のジブンゴト化
山田 朋人さん
北海道大学大学院工学研究院 土木工学部門
河川・流域工学研究室 教授
神奈川県出身、小学生時代を札幌で過ごす。芝浦工業大学卒業後、東京大学大学院修士課程、博士後期課程を修了(博士(工学)取得)、2007年からNASAゴダード宇宙飛行センター勤務、2009年から北海道大学大学院工学研究院に勤務し、2022年5月から現職。研究分野は水文気象学、水理学、水資源工学、地球流体力学等。2024年7月8〜12日に開催された「全球エネルギー水循環プロジェクト国際会議(GEWEX-OSC)」で大会実行委員長を務める。
水の循環から見た気候変動
私の研究は、大きく言うと地球上の「水」に関わるすべての事象が対象となります。水蒸気が雲となり、雨や雪となって地上に降り、川などを流れて、あるいは地下水となり、海へ入り、蒸発して再び水蒸気となります。その過程で「水」は、飲み水や生活用水になります。水のバランスがとれなくなると災害を引き起こすこともあります。そうした水の循環を追いかけ、自然科学と、そこに人間が介在する、防災も含めた土木工学と社会基盤に関する研究を行っています。
研究のなかで、いま起こりつつある気候変動について様々なことが見えてきました。例えば、2015年に定められた気候変動対策の国際ルール「パリ協定」で世界の平均気温上昇を2℃に抑える長期目標が立てられましたが、その目標が達成された場合でも、日本の降雨量は10〜15%増えることが予測されています。
気温がさらに上昇すると、雨の材料となる空気中の水蒸気量も増えるため、降雨量も増えます。私たちの気候変動予測結果によると、北半球の高緯度ほど温度上昇の影響を受けることがわかっており、北海道は国内の他の地域より降雨の増加倍率が大きくなります。また、これまでは、強い勢力を保ったまま北海道に到達することは少なかった台風が、弱まらずに北上して大きな雨量をもたらすことや、前線、線状降水帯の影響もあります。
気温が上昇して空気中の水蒸気が増えると、強い上昇気流が起こりやすくなり、短時間で局所的に強い雨が降るゲリラ豪雨や、狭い範囲で数時間にわたって大量の雨が降る線状降水帯が発生しやすくなります。2024年9月に能登半島を襲った豪雨では、輪島市で1時間に120ミリ以上の雨が降りました。北海道では、一般的に1時間におおよそ30ミリの雨が降ると下水道管やマンホールから水があふれ出しますが、その4倍もの雨量です。
また、降雪・積雪量は全体として減り、雪解けが早くなります。それによって、スキー場の営業や、雪解けに合わせて水田に水を入れていたお米の生産など、産業や暮らしにも大きな影響を与えます。
私たちが研究している気候変動予測情報なども活用し、気候変動の影響についてのわかりやすい動画が作成されていますので、こちらもぜひご覧ください。
・地方独立行政法人北海道立総合研究機構「未来の天気予報 北海道2100冬」
https://www.hro.or.jp/industrial/research/eeg/development/publications/introduction.html
世界でも稀な急流河川・豊平川
気候変動の影響として、風水害のリスクが高まります。札幌を流れる豊平川は、世界的に見ても大都市を流れる川としては急こう配(急流)です。大雨が降った場合には高速の乱れた流れが生じ、堤防等の安全性が損なわれ、ひとたび堤防が決壊すると、流れが速く力の強い川の水が短時間で都市部に到達し、避難行動や避難誘導を困難にするだけでなく、都市機能を麻痺させるおそれがあります。
豊平川では1981(昭和56)年8月に2度の大洪水があり、甚大な被害をもたらしました。今後もこうした洪水が起こる可能性は少なくありませんし、札幌にお住いの皆さんの身にも起こる可能性があることを知っていただきたいです。
例えば、2014(平成26)年9月11日に支笏湖周辺で線状降水帯が発生し、豪雨となりました。道内で初めて大雨特別警報(浸水害、土砂災害)が出され、札幌市内では33年ぶりに避難勧告も出されました。このときは線状降水帯が市内中心部まで到達せず、そこまで大きな災害になりませんでしたが、もし線状降水帯が少しずれて停滞していたら、大災害につながっていたかもしれません。
<豊平川の1981(昭和56)年8月洪水での浸水の様子>
三角波の発生(ミュンヘン大橋)
幌平橋直下流左岸
南大橋上流左岸
出典:北海道開発局札幌開発建設部
https://www.hkd.mlit.go.jp/sp/kasen_keikaku/e1lg9o000000awzl-att/e1lg9o000000hlbf.pdf
私たちの研究では、このような「過去に起こり得たかもしれない」「今後起こり得るかもしれない」状況も含めた様々なデータを用いて、気候変動の影響を科学的に評価しています。近年、その研究成果を活用して、国交省の治水計画が立てられるようになりました。札幌市の治水計画でも同様に研究成果が活用され、先進的な手法を用いていることなどから、世界でも注目されています。
また、防災訓練においても、これまでは大雨災害の履歴に基づくものでしたが、今後は気候変動をふまえた将来を想定したものへ変えていく必要があり、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期のサブ課題B「リスク情報による防災行動の促進」(研究責任者:山田朋人)として進めているところです。
災害を含めた日本の平常
2024年7月に札幌で「第9回全球エネルギー水循環プロジェクト国際会議(GEWEX-OSC)」を開催し、世界45の国と地域から研究者と政策立案に関与する方々が集まって「気候変動と水」をテーマに議論を重ね、その成果を社会に発信していく取組を行いました。市民をはじめ幅広いステークホルダーに向けたセミナーも行い、大きな反響がありました。気候変動対策には、地域や研究分野を超えた人々の連携が重要だと実感するとともに、このような研究がより一層推進されることを期待しています(詳細はこちら:https://sites.google.com/eis.hokudai.ac.jp/gewex-osc2024/)。
GEWEX-OSCでの集合写真
それから、私が研究活動でいつも大事だと思っているのが、例えば2024年9月の能登半島豪雨のような災害を含めた状況を「日本の平常時」と考えなければいけない、ということです。平常時というと、「何も起こらない平和な日常」と思いがちですが、災害の多い日本で平常時と災害は切り分けられるものではありません。毎年日本のどこかで起きている災害が、札幌でも起きるかもしれません。そのような置き換えをして、家庭や学校、職場で、日頃の備えや災害時の避難について考え、話し合っていただければと思います。
気候変動に伴って、甚大な災害が増えていくのは受け入れがたいと思ったら、それを少しでも回避するために「いま何ができるか」を考えてみてください。生活の中でCO2排出量を減らすことも、防災訓練に参加することも、地球温暖化や気候変動、災害の「ジブンゴト化」の第一歩です。
とはいえ、私たちは常に豊平川の洪水についてのみを考えているわけではありません。天気の良い日に、豊平川の河川敷をサイクリングするのはとても気持ちが良いものです。GEWEX-OSCの会議後も研究者たちを自転車で連れ出し、楽しい時間を過ごしています。気候変動や災害について考えることは、決してネガティブなことではありません。将来どんなまちに住みたいか、どんな暮らしをしたいか、ポジティブに楽しく考え、多くの人たちと連携しながら、今後もいろいろな取組を進めていきたいと思います。
豊平川流域の地形や防災を学ぶサイクリングに参加してくれた皆さんとの記念写真