ゼロカーボン都市さっぽろ
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生活の中で感じるサステナビリティ

現在はドイツに拠点に試合やトレーニングに臨んでいますが、ふだんの生活の中で、環境に対する価値観の違いや、サステナビリティへの取り組みが進んでいると感じることがあります。
たとえば、スーパーマーケットでは野菜やパンが直接棚に並べられ、自分で麻袋などに詰めてレジに持っていくので、プラスチックに全く触れずに買うことができます。日本で見るような、きれいにラッピングされた野菜はごく一部です。また、町中に給水スポットがたくさんあり、山からひいた湧水が24時間365日流れていて、サイクリングやウォーキングの途中によく利用しています。
僕自身は、もともと母親が環境問題について関心があり、子どものころから一緒に環境をテーマにした施設に行くこともあって、自然に興味を持っていました。自分がスキージャンプ競技に挑戦するなら、ジャンプとは全く別のことにも同時に挑戦したいと思い、環境問題についてより真剣に考えるようになりました。

ドイツを拠点として6・7月はトレーニングがメイン、8月から10月までは各国を回り、夏のワールドカップに出場しています

ジャンプ台のあるまち、札幌

僕は札幌出身で、大倉山ジャンプ競技場の近くにある大倉山小学校が母校です。今はあちこち海外遠征に出かけますが、札幌ほど大きなジャンプ台があって、約200万の人が暮らす都市は他にないと思います。しかも市街地からの距離が近い。「どれだけ大きな都市でジャンプができるんだ」と海外の選手に驚かれます。
昔のことなので詳しくはわかりませんが、大倉山ジャンプ競技場は、周りの森を切り払ってコンクリートの土台や防風ネットで囲まれた海外に多くあるジャンプ台と違い、まだ多くの動植物が見られると思います。円山でもリスをよく見かけますし、実は札幌がすごく恵まれた自然環境にあることを、ドイツに来てから改めて感じています。ドイツでは近所で野生動物を見かけることがほとんどありませんから。
また、ドイツは南部にジャンプ台が多く、近年、雪不足で中止になる試合が増えています。暖冬の影響は以前もありましたが、「3年連続の雪不足」といった状況は最近になってからで、地球温暖化が進んでいるのかもしれません。

大倉山展望台

選手としてできること、環境面でできること

2019年に「合同会社フライングラボラトリー」を立ち上げた時から、毎年試合のために乗った飛行機や車などで排出したCO2をオフセット(※)するほか、試合で飛んだ距離に応じて持続可能な活動を行うNPOに寄付するなどの活動を続けています。これらはフライングラボラトリーのオンラインコミュニティに集まった人たちからアイデアをいただき、一緒にアクションを起こしたものです。さらに今後は排出したCO2を、カーボンクレジットを購入するのではなく自分たちで実際に木を植えたり、ブルーカーボンを利用したりしてオフセットする挑戦も計画中です。 ※オフセットは、あるものと別のものを相殺するという意味があり、CO2などの温室効果ガス排出量を削減する取り組みや、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方を「カーボン・オフセット」といいます。 こうした活動を続ける中で、僕が大切にしたいと考えているのが「実感すること」です。自分たちが動いて、自然環境に触れたり、いろいろな人の話を聞いたりしていると、「地球上で多くの人とつながって、コミュニティの中で生きていること」を実感します。たとえば、僕がごみをポイ捨てしたら、コミュニティの人たちが困ることがあるかもしれない。自分の好きなスキージャンプで生きていくと決めた以上、自分の好きなことで誰かや未来が不幸になることは、絶対に嫌だと感じます。それは環境面でも同じで、選手としてできること、環境面でできることの両方をやりたいし、みんなで実感しながらアクションを起こしていきたいと思います。

雪を貴重な資源として

これだけ多くの雪が降り、これだけ多くの人が住む大都市は、世界でも札幌の他にありません。ヨーロッパにいて強く感じるのは、雪はとても貴重な資源であり、雪自体に魅力があるということ。ドイツの人たちはたとえ人工雪が張り巡らされたスキー場であっても、スキーをしに出かけます。
札幌に降るこの豊富な雪を、どう使ったら面白くなるか、どうしたらお金を稼ぐことができるか。世界の産油国がオイルマネーで潤ってきたように、札幌は雪で豊かになるかもしれません。それを真剣に考えて実現すると、札幌は超面白い都市になると思いますし、北海道は超魅力的な島になるはずです。
北海道の人口はフィンランドとほぼ同じで、フィンランドのほうがGDPが2.5倍ほど高い。ということは、北海道はまだ2倍以上成長できる可能性がある、と僕は勝手に思っています。ただしこれからの成長は、今までのように製品や建物をどんどん生産し続ける成長ではないと思います。もっとスマートに成長していけることがあるはずで、僕自身とても興味があります。具体的に何ができるかは全然わかっていませんが、それを札幌でトライしていけたら、きっと面白い未来が待っていると思います。

札幌の降雪量は1991年~2020年の30年間の平均。他の都市は、1985年~1990年までの5年間の平均。
*人口:出典 総務省統計局「世界の統計 2022」
出典:札幌市建設局雪対策室計画課「札幌にはどれくらい雪がふるの?」
https://www.city.sapporo.jp/kensetsu/yuki/kids/kids_seikatsu2.html
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